メタゲー「The Beginner’s Guide」のネタバレレビュー

最近プレイして心を抉られてしまったメタゲー「The Beginner’s Guide 」についてご紹介します。

 

The Beginner’s Guideについて

簡単な概要を述べますと、ゲーム開発者Codaが作成した未完成の3Dゲーム群を、開発者の友人である語り部Davey Wredenの分析を聴きながらプレイするゲームです。このゲーム群にゲーム性はあまりなく、そのミニゲーム自体を楽しむというよりは、語り部Davey Wredenと一緒にゲームをプレイしながら、作成者であるCodaの心情や苦悩などを追体験していくADVゲームといった感じです。

Steamでプレイすることになると思います。日本語ローカライズはまだだった筈なので、プレイする場合は日本語化Modを入れてプレイしましょう。

 

以下ネタバレレビュー

ゲームの性質上、ネタバレせずに感想を書くのは難しいのでここからはネタバレでお話しします。未プレイの方は読まずに引き返すことをお勧めします。

信頼できない語り手Davey Wreden

ゲームを進めてゆくと、ゲームの語り部であるDavey Wredenは物語批評でいうところの「信頼できない語り手」に当たることが察せられてきます。というのもDavey Wredenがゲームを改竄していたことが分かってくるからです。なので、それまで提示されてきた「未完成ゲームへのDavey Wredenの解釈」に対するプレイヤーの信頼は揺らいでゆくことになります。

事のあらましを述べると、Codaは自身が作成したゲームを公表したくなかったのですが、Davey Wredenはその意に反して作成したゲームを勝手に改竄し周囲に公表したりしていたことが、段々と明らかになっていきます。Davey Wredenは「Codaの先進的なゲームに価値を発見しCodaを救う立場」を誇示することで自身の希少性を認めてもらい、承認欲求を満たそうとしたのです。その結果、その状況にCodaが耐えられなくなりCodaが最後に残した作品の中でお互いのために絶縁の宣告をします。

 

創作者の二つの側面

この対置された2人の人物が、多くの創作者が持つであろう二つの相反する側面を表現していることは想像に難くないと思います。

  • Coda→創作プロセスに価値を見出す
  • Davey Wreden→創作の結果を承認されることに価値を見出す

太陽の塔で有名な芸術家の岡本太郎が、創作時の心身が変容し砕け散るプロセスを重視していて「芸術なんて石ころと同じ価値」と創作の結果に重きを置かなかったといいいます。そのような態度はCodaの姿勢に通じるところがありますね。

途中のゲームで「House」というものがあるのですが、ひたすら皿洗いしたりベッドメイキングしたり本を片付けたりと家事仕事をループし続けるという箇所があります。そしてCodaがこのゲームに関しては特別な感情を抱いていたことが示されます。Codaの創作行為に対峙する時の心境が現れているくだりだなと思いました。

一方Davey Wredenは他者から承認されることを何よりも求める人物でした。そのためCodaのゲームを周囲に承認させ、Codaの救済者としてCodaや周囲の人に承認されることを望みました。そのためCodaと行き違いを起こし悲劇的な結末を迎えることになります。

何かしら創作活動を行なっていて、この相容れない二極の思想に引き裂かれたことがある方も多いのではないでしょうか。

 

その創作は承認欲求故か?

Davey Wredenは異常な精神性をもつ人物だと悪く受け取られがちだと思います。

しかし、Davey Wredenの痛々しい科白を聞き流してはならないと思います。人間は多かれ少なかれこの承認欲求を抱えています。「他人に受け入れてもらいたい」「自分じゃない誰かになりたい」というようなことを少しも考えたことがないという人は、おそらくいないのではないかと思います。

私は何かを創作することが好きですが、その創作行為が承認欲求によるものなのか分からなくなるという問題に直面することがよくあります。

例えば音楽を創るときに、「今作ったこの音楽は誰かを満足させ承認してもらう、そのために作ったものではないだろうか?」と考えることがあります。そうやって阿るような態度で創作した自分に嫌悪感を覚えると同時に、「他者に承認されないような音楽を創ることになんの意味があるのだろう?」という考えが頭の中をよぎります。

そんな考えを打ち消そうと別の音楽を作ろうとします。そしてそこでまた別の誰かを想定して創作をしていたことに気づく…というような無限ループのような状況に陥ることがあります。

承認欲求と自身の創作欲求の境目が見えなくなっている、そんな折にこのゲームをプレイし、Davey Wredenの悲痛な叫びに強く共鳴して胸を抉られる思いでした。

 

承認欲求の迷宮の出口

最後の場面では、Davey Wredenが「埋め合わせが必要なことが多くある」とこれから何かをしようとするような意味深なセリフを残して喋らなくなり、最初にプレイしたゲーム「whisper」の浮遊バグを再体験することになります。

迷路のようなフィールドを眼下に望みながら、開放的な宇宙空間を浮かび上がっていく場面でゲームは幕を閉じます。

この場面についての私なりの解釈ですが、「whisper」の浮遊バグはCodaを創作に駆り立てる「初期衝動」に繋がるものでした。そのため、承認欲求の迷路的な状況から抜け出すには「初期衝動」に立ち返りなさいという示唆が含まれたエンディングなのかなと解釈しました。

子供が地べたに寝そべって、クレヨンを握りしめて絵を描く、周囲のことなんて御構い無し、描きたいものを描きたいように描く。そこにはノイズの少ない純な初期衝動があった筈です。そのような初期衝動を思い返すというのは、この問題への一つの回答なのかもしれないと思います。

 

まとめ

今回はゲーム「The Beginner’s Guide 」についてご紹介しました。考察好きな人、創作することが好きな人は何かしら響くところがあるゲームだと思います。

同じ開発者の前作に「The Stanley Parable」というゲームがあるそうで、こちらは未プレイなので今度プレイしてみようと思います。

return-top